◆ 導入 ― オンラインで見つけて、川越で出会った
ダイソーのオンラインショップを眺めていたとき、
妙に目を引くカードゲームがあった。名前は**「千怪戦戯(せんかいせんぎ)」**。
妖怪をモチーフにした、ダイソー完全オリジナルのトレーディングカードゲームらしい。
気になって翌日、川越新宿店へ足を運んでみたところ、
スターターデッキ3種とブースターパックがずらりと並んでいた。
思わず全種類を購入。
「110円で世界が買える」と思うと、財布よりも好奇心が先に動いた。

◆ 観察者としての前提 ― カードゲームとの歩み
筆者が初めて触れたカードゲームは**『遊戯王OCG』第2期**。
融合召喚が主流だった頃、青眼の白龍に憧れ、
手札事故と戦いながらルールを覚えていったのが始まりだった。
次に熱中したのが**『デュエル・マスターズ』**。
テンポの速い展開と「マナシステム」の発想に衝撃を受けた。
子どもでも戦略を楽しめる仕組みで、TCGの間口を一気に広げた作品だった。
その後、ヴァンガードやファイアーエムブレム サイファ、
そして短命ながら印象深いジーククローネなど、
さまざまなタイトルを渡り歩いてきた。
成人してからはマジック:ザ・ギャザリングにも手を出し、
TCGの源流と構造を改めて学んだ。
現在も現役で遊戯王をプレイしており、
その複雑化したルール運用を「紙上プログラム」として楽しんでいる。
だからこそ、今回の「千怪戦戯」のような“原点回帰的TCG”には
強い興味を覚える。
情報を極限まで削ぎ落とし、手触りと想像力だけで成立する遊び。
そこに「アナログの未来」を感じた。
◆ 前史 ― 蟲神器からの系譜をたどる
「千怪戦戯」は突如現れた新作ではなく、
実はダイソーTCG三部作の第3世代にあたる。
1作目は、対戦ルールの完成度で話題を呼んだ**『蟲神器(むしじんぎ)』。
2作目は、偉人をモチーフにした異色のカードゲーム『イジンデン(異人伝)』。
そして3作目となるのが、今回の『千怪戦戯(せんかいせんぎ)』**である。
それぞれに明確な方向性があり、
遊びのデザイン思想が世代を追うごとに変化している。
● 第1世代:蟲神器 ― システムの完成度
● 第2世代:イジンデン ― モチーフの拡張
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テーマ:歴史上の偉人たちをカード化(知の競演)
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構成:戦闘要素を残しつつ、キャラクター性やフレーバー重視へ。
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特徴:教育要素とカードゲームの融合を試みた実験的作品。
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印象:“知識を遊びに変える”という方向性が明確に見え始めた。
● 第3世代:千怪戦戯 ― 体験の完成度
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テーマ:妖怪+戦戯(物語と神話の世界)
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構成:デッキ+世界観カード+イラストカードの三層構造。
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特徴:ルール説明を10枚のカードに分割し、触って学ぶUXを採用。
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印象:勝負・知識・物語の要素を統合した“完成型”ともいえる。
三部作を通して見ると、
ダイソーのカードゲームは確実に進化している。
蟲神器は「構造の時代」、
イジンデンは「知識の時代」、
千怪戦戯は「物語の時代」。
百円という制約の中で、
遊びの意味そのものを更新していくプロジェクトのようにも見える。
◆ デッキ構成の観察 ― 50枚の中の設計思想
スターターデッキは全50枚構成。
内訳は以下のとおり:
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30枚:対戦用デッキ本体
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10枚:ルール説明カード
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8枚:イラストカード(テキストなし)
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2枚:世界観解説カード
特に注目すべきは、イラストカードと世界観カードの存在だ。
ゲームを始める前に“この世界に入る準備”ができている構成。
ただの説明書ではなく、**「物語を体験するための導入装置」**になっている。
また、ルールカードを10枚に分割しているのも秀逸。
プレイヤーがカードをめくりながら学ぶ“動的なUX”が成立しており、
「読ませる」のではなく「触らせて理解させる」デザイン哲学が見える。

◆ 三つの勢力 ― 世界を形づくるスターターデッキたち
スターターデッキは3種。
それぞれが単なる属性ではなく、神話的テーマとして設計されている。
🔥 赤:伝説の獣 ― 力と誇りの象徴
攻撃特化で扱いやすく、シンプルに「勝つ快感」を味わえる。
黄金と紅のカード群が、戦士のような存在感を放つ。
原初的な「戦う楽しさ」がここにある。
🌿 緑:太古の生物 ― 命の記憶
恐竜や植物など、生命の連鎖を感じるカード構成。
時間をかけて盤面を整える“育てるデッキ”。
静かに積み重ねていく過程が美しい。
💧 青:神々の領域 ― 祈りと秩序の象徴
青と白を基調に、神霊や儀式を思わせるデザイン。
状況に応じた柔軟な展開が可能で、知恵や調停の象徴的デッキ。
プレイヤーに「戦いを俯瞰する視点」を与えてくれる。
3つの勢力は“三すくみ”ではなく“世界の三相構造”として存在する。
炎は力、自然は命、水は秩序。
それらが循環し、ひとつの神話体系を形成している。

◆ カードという物体 ― 手触りが語る完成度
実際にカードを手に取ってみると、まず感じるのはサラサラとした心地よい質感。
指先に軽く吸い付くようで、シャッフルしても滑りすぎない。
印刷も非常に綺麗で、細部の線が潰れておらず、発色も上々。
イラストの構図や余白の取り方にもデザインセンスが光る。
唯一気になるのはカードの厚み。
やや薄めで、長期使用や素手プレイでは角が擦れやすい印象だ。
しかしそれを踏まえても、この価格帯では驚くほどの完成度。
千怪戦戯は“カードという工業製品”として見ても十分観察価値がある。
触覚・視覚・操作感――すべてが「110円の限界」を超えている。
◆ まとめ ― アナログの逆襲としての千怪戦戯
複雑化・自動化が進むTCG文化の中で、
「千怪戦戯」はあえて情報を削ぎ落とし、
人間の想像力で遊ぶ余白を残した作品だ。
構成・デザイン・世界観・UX――その全てが“110円の叙事詩”と呼ぶにふさわしい。
カードをめくるたび、AIが忘れかけた「人間的な遊びの手順」が蘇る。
◆ 次回予告 ― ブースターパック観察編へ
次回は、ブースターパック1箱の中身を開封し、
レアリティの構成・カード種類・封入パターンを観察する予定。
“おもちゃ箱の続き”として、千怪戦戯の宇宙をもう少し深掘りしていこう。