narita-lab’s blog

成田ラボ 〜テクノロジーと雑学の観察日記〜

Ainex KM-09 レビュー

「見えない電気を見る道具」


導入:「電気は、見えない。」

僕らが日々触れているガジェットのほとんどは、電気で動いている。
イヤホンも、スマホも、パソコンも。けれど、その“流れ”を僕らは見たことがない。
光らないし、音もしない。
せいぜい、熱や振動という副産物でしか感じ取れない。

だからこそ、数値として電気を見るという行為には、
ある種のロマンがあると思う。

AinexKM-09 は、そんな見えない世界を“観察可能なもの”に変える小さな装置だ。
Type-C端子の両端を繋ぐだけで、
電圧(V)と電流(A)を即座に表示してくれる。
表示された数値は、スマホの鼓動のようにゆっくりと変化していく。

僕はこの装置を「テスター」ではなく、**観測眼(センサー)**と呼びたい。
Narita-Labにおける最初の“観察装置”として導入した理由は、
イヤホンやドングルの背後で動く、電力の呼吸を記録するためだ。


第1章:外観と仕様 ――140Wの透明な力

KM-09は一見すると、ただの小さなアダプタに見える。
けれど、手に取って光を反射させると、
その表面にはType-C to Type-C構造の中に詰め込まれた技術の密度が感じられる。

全長は指の第一関節ほど、重さはおそらく15g前後。
中央の1.4インチ液晶が小さく光り、
リアルタイムで**電圧(V)と電流(A)**を交互に表示する。
液晶は明るく、角度を変えても数字が読み取れるのが好印象だ。

背面のスペックにはこう刻まれている。

USB PD 3.1対応/最大140W(28V・5A対応)

つまり、最新のノートPCや高出力充電器にも対応できる。
ガジェットレビューで扱うTWSスマホにとっては完全にオーバースペックだが、
**「測定限界が高い=安心して観察できる」**ということでもある。

Type-Cポートに差し込んだ瞬間、
液晶に「5.03V/0.31A」と数値が浮かび上がる。
その瞬間、ただのケーブルだったものが情報を運ぶ血管に見える。

質感はアイネックスらしく硬質で、
ケーブルを何度抜き差ししてもたわみがない。
コンパクトながら反応速度が速く、ノイズの少ない安定表示が特徴だ。
USB端子の噛み合わせも良く、机の上での撮影にも向いている。

見た目に派手さはない。
けれど、数字のひとつひとつが確かな“現実”を示してくれる。
この手の測定機器で信頼できるのは、
デザインよりも「変わらない数値」だ。

 

第2章:実測 ――手のひらの中を流れる電気

最初にKM-09を接続したのは、手近なケルトTWSの充電ケースだった。
Type-Cケーブルを差し込んだ瞬間、液晶に「5.02V/0.31A」という数字が現れる。
LEDが点滅し、数値がゆるやかに上下する。
この数字の揺らぎこそ、バッテリーが呼吸している証だ。

少し時間を置くと電流値は0.31A → 0.25A → 0.18Aへと減少し、
およそ30分後には「0.00A」近くまで落ち着いた。
電気が流れなくなる瞬間、LEDも静かに消灯する。
「充電完了」というより、“生命活動が静まった”ような印象すら受ける。


次に試したのはXperia 1 III
DSEE Ultimateを有効にしたまま音楽を再生しながら計測すると、
およそ5.10V/0.47A前後。


楽曲のピークに合わせてわずかに数値が跳ねる。
まるで“音”が電気の波として可視化されているようで、
Narita-Lab的にはたまらない瞬間だった。

このKM-09の表示は反応が非常に速く、
人の手でスクロールしても遅延がほとんどない。
数字が滑らかに変化していく様子は、
まるで電子の流れをスローモーションで眺めている感覚だ。


最後にモバイルバッテリーを観察した。
入出力を切り替えるだけでKM-09が自動で方向を認識し、
「IN」「OUT」を切り替えて表示してくれる。
これは地味だが非常に便利。
バイスを傷めることなく、電力の流れを正確に追える。

数値は「9.02V/1.98A」。
明確に高出力PDが作動しており、
テスターの液晶右上には小さく「PD」と表示された。
この瞬間、「ただの測定器」ではなく、
**“電力の言語を翻訳する通訳者”**のように感じた。


KM-09を使ってみてわかったのは、
この世界には「流れるけど見えないもの」が、
想像以上に表情豊かに存在しているということだ。
数値の変化はまるで脈拍のようで、
測定をやめた後もしばらく見入ってしまう。

 

第3章:観察装置としてのKM-09 ――数字が語る世界

数字は嘘をつかない。
けれど、数字だけでは何も語らない
そこに“観察者の意図”が入って初めて、データは意味を持つ。

KM-09を導入して感じたのは、
この装置はただのメーターではなく、
「ガジェットを理解するための言語変換機」だということだ。
イヤホン、スマホ、モバイルバッテリー──
すべての機器が、自らの“電力の言葉”をこの小さな液晶に吐き出している。

Narita-Labが扱うテーマの多くは、
音や光、発熱や素材といった“感覚的なもの”だ。
そこに電流値という客観的な目が加わることで、
レビューは一歩、科学に近づく。


たとえば、スケルトTWSのレビュー。
これまでは音と質感でしか語れなかった「内部の動作」を、
KM-09があれば数字で追える。
・初回充電時:5.03V/0.31A
・満充電直前:0.07A
・LED消灯後:0.00A

この3行だけで、読者は“動作の終わり”を想像できる。
それはつまり、**“感覚を共有できるデータ”**だ。

同じことは、FiiO KA11やスマホのレビューにも言える。
音質の話だけでなく、「DSEE Ultimateを有効にすると平均消費電流が上がる」など、
“耳では感じられない違い”を数字が語り始める。
それを見た瞬間、読者の中に小さな“理解の光”が灯る。


KM-09の魅力は、そうした“電気の表情”をありのままに見せてくれることだ。
そこに誇張も演出もない。
数字が増えれば電気が流れ、減れば止まる。
シンプルで、正直で、どこか人間的。
Narita-Labの言葉で言うなら、**「電子の呼吸」**だ。


この装置を導入したことで、
僕のレビュー手法そのものが少し変わった。
これまでは“体感”を言語化する作業だったけれど、
これからは“体感+計測”で、
「感じたことを裏付ける科学的視点」へとシフトしていく。

数字は冷たいと思われがちだが、
その裏には確かに動いている命がある。
僕がこの装置を使って観察したいのは、
電気の流れそのものよりも、
その向こうにある「テクノロジーの呼吸」なのかもしれない。

 

第4章:応用と展望 ――Narita-Lab計測標準装置として

Ainex KM-09を導入した時点で、Narita-Labはひとつの段階を越えた。
それは「感覚の観察」から「現象の記録」への進化だ。

これから登場するあらゆる記事――
Moondrop LAN、FiiO KA11、スケルトTWS、Galaxy S24 FEの発熱雑学、
どれにもこの小さな装置が quietly 付き添う。

5 V/0.31 A
数字ひとつで、そこにどんなプロセスが流れているかが見えてくる。

音が鳴る瞬間、光が点く瞬間、
その裏で確かに電気が“息をしている”ことを教えてくれる。
それを視覚化するKM-09は、まさにNarita-Labにおける
実験装置 #001――観察の基準点だ。


▷ 今後の活用計画

  • ケルトTWSの電流プロファイル化
    → 充電〜満充電までの電流推移をグラフ化し、“透明な電気”のリズムを記録する。

  • ドングルDAC比較(KA11 vs 他社)
    → 音質差と電力消費を対比し、「音のエネルギー効率」を探る。

  • 100均USBケーブル耐久検証
    → 「何円までが“安全に流せる電気”なのか」をデータで証明。

  • スマホ発熱雑学シリーズ
    → DSEE Ultimateや動画再生時の電力変化を実測して“熱と消費”の相関を可視化。

どの計測にも共通するのは、
**「体感を数字で補強する」**というNarita-Labの哲学だ。
感じたことをただ言葉で表すだけでなく、
その裏にある物理的現象を丁寧に記録する。


▷ KM-09がもたらした視点

これまで「良い音」「発熱が少ない」といった感覚は主観だった。
しかし今後は、

“良い音”=効率よく電力を使っている音、
“静かな発熱”=無駄のない電流制御、
といった定量的な翻訳が可能になる。

Narita-Labは、感性と科学の境界を歩くメディアだ。
KM-09の数字は、その境界を見える化する羅針盤になる。


▷ まとめ ――測ることは、感じること

電気は見えない。
だからこそ、測ることで“存在”を確かめられる。
Ainex KM-09は、ただの測定器ではなく、
Narita-Labが世界を理解するための新しい感覚器官だ。

次にこの装置が登場するのは、スケルトTWSの記事になるだろう。
透明なイヤホンの奥で流れる、目に見えないエネルギー。
その“心拍”を数値として記録する時、
Narita-Labの観察はまたひとつ、深度を増す。

 

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