narita-lab’s blog

成田ラボ 〜テクノロジーと雑学の観察日記〜

安価でも、方向はブレていない」──ダイソー×Maxtill ゲーミングイヤホンを観察する

導入:「ゲーミングの名を持つ100均」

店頭で見つけたとき、思わず二度見した。
──“ゲーミングイヤホン”。

しかも製造は、韓国のゲーミングデバイスブランド Maxtill
ダイソーの棚に、その名前があること自体がちょっとした事件だった。

価格は税込 550円
完全ワイヤレスでもなく、Bluetoothでもない。
ただの有線イヤホンに、着脱式ブームマイクが付いている。
言葉の響きは地味だが、その存在は妙に気になる。

Narita-Labではこれを 実験装置 #003 として観察することにした。
テーマは、「低価格でも、狙いを持った設計は可能か」。
KM-09(電力観察装置)とスケルトTWSの流れを汲み、
“構造で語るイヤホン”の第三章に位置づける。

 

第1章:外観 ――550円の中の合理と誠実さ

見た目は実にシンプルだ。
黒一色のマットボディで、光を吸い込むような落ち着いた質感。
素材はすべてプラスチック製

指でつまむとわずかにしなる軽さがあり、
安価な射出成形特有の“柔らかい剛性”を感じる。
ただしバリやヒケは見当たらず、
成形精度はこの価格帯としては驚くほど整っている。

ハウジングはやや大柄で、
外耳に収まるというより“乗る”タイプ。
そのぶん耳穴を圧迫しないが、動くと少しズレる。
**「形で固定するより、軽さで逃がす」**という割り切りを感じるデザインだ。

ケーブルは標準的なPVCストレートタイプ
細めだが柔軟性があり、絡みにくい。
外被の光沢は控えめで、安価なケーブルにありがちなテカりがないのが好印象。
必要最低限――それ以上でも以下でもない。

そしてこのイヤホンの象徴が、着脱式ブームマイク

マイクの根元には約2 mm径の独自ジャックが設けられており、
2.5 mmプラグとは互換しない専用設計だ。
差し込むと小さなクリック感とともに固定され、
緩みやガタつきはない。
端子構造はシンプルな単一接点タイプで、
ノイズ経路を最短化する設計思想が垣間見える。

付属品はイヤーチップのみ。
イヤーチップはMサイズが装着済み。
自分の耳にはぴったりだったが、

SやLサイズを常用している人は要交換。
このあたりの割り切り方はダイソーらしい――
「誰にでも完璧」ではなく、
コストの中で“最も平均的”を選ぶ設計だと感じる。

このイヤホンは、豪華さや高級感を演出するための要素を一切排除している。

その代わりに「必要最低限で構成された合理」を選んでいる。
素材も、構造も、価格も、まるで余白のある設計だ。
この潔さこそが、550円という制約の中で生まれた
“Maxtill流ミニマリズム”なのかもしれない。

 

第2章:構造と音の方向性 ――中域に焦点を当てたゲーミング設計

550円という価格の中で、
このイヤホンは「何を捨て、何を残したのか」。
答えは、聴けばすぐにわかる。

一聴してわかるのは、中音域の押し出し
銃声や足音、仲間の声が明確に聞こえる“ゲーム用の音”を狙っている。
低域は浅く、高域も丸い。
代わりに人の声の帯域――およそ1〜4kHzあたりがぐっと前に出る。
この帯域設計が、「ゲーミング感マシマシ」の正体だ。

『EM20=wunder operation=』(鷺巣詩郎)を聴くと、
ストリングスの厚みは感じられるが、広がりは少ない。
『Plazma』(米津玄師)では、ボーカルだけが妙に手前に来て、
ドラムとベースが背景に退く。
まるで、音楽を「情報として聴かせる」方向性だ。

これはつまり、戦場での声優先設計
“音楽を聴くため”ではなく、“勝つために聴く”ためのイヤホン。
Maxtillらしい割り切りだ。

マイク側の構造も、それを裏付けている。
2mmの専用ジャックで取り付ける着脱式ブームマイクは、
見た目こそシンプルだが、かなりクリアに声を拾う。
ただし、ポップガードが無い。
「ぱ行」や「は行」の息が直接マイクに当たるので、
ボイスチャットでは風防やスポンジカバーなどのちょっとした工夫が必須だ。

一方で、その“むき出し感”も嫌いじゃない。
加工で丸めず、音声をそのまま拾う。
そこにもどこか、見せる設計=隠さない設計の精神がある。

Maxtillがこのイヤホンで伝えたかったのは、
「万能ではないが、焦点はブレない」こと。
中域を中心に据えるという決断は、
コストカットではなく目的への集中だったのかもしれない。

 

第3章:装着感と実用性 ――構造が生む課題と個性(改訂版)

イヤホンというのは、音よりも先に「形」で印象が決まる。
音質は慣れで補えるが、装着感だけは誤魔化せない。

このMaxtill製ゲーミングイヤホンは、
その点で少し“個性的”だ。

まず、ハウジングがやや大きく耳に乗る形状をしている。
耳穴に差し込むというより、外耳に“当てる”タイプ。
そのため軽く頭を動かしただけでもズレやすく、
イヤホンを押し込み気味に装着する必要がある。
この構造は短時間のゲームプレイでは快適だが、
長時間使用では疲労が出やすい。

音質評価のときにも触れたが、
フィットが甘くなると低域が逃げ、
中域だけがさらに強調されて“こもり”が増す。
このイヤホンを正しく聴くには、
ポジション調整が前提の設計だ。

イヤーチップはS・M・Lの3サイズが付属。
Mサイズが装着済みで、標準的な耳にはちょうど良い。
Sサイズを使うと軽い装着感、Lでは密閉が増す。
自分の耳に合わせて選べば、音の印象がかなり変わる。
この点は550円という価格を考えると、
非常に誠実な設計だと感じた。

ケーブルは柔らかく軽いが、
マイクを取り付けるとその部分が前方に突き出るため、
やや重心が前寄りになる。
ブームマイクを付けたままスマホで音楽を聴くと、
まるで「ヘッドセットを持ち歩いている」ような見た目になる。
実用性という意味では割り切りが必要だ。

だが、その割り切りの潔さがこのイヤホンの魅力でもある。
ゲーミングという言葉に余計な飾りを付けず、
“必要な機能だけ”を残した結果の形。
デザインとしての美しさよりも、
使う目的の明確さを選んだ構造だ。

このイヤホンは、
快適さや高音質を求めるための道具ではない。
むしろ、「自分がどう使うか」を試す実験装置に近い。
その意味で、成田ラボが観察対象として選んだ理由は明確だ。
不完全な設計ほど、観察の価値がある。

 

第4章:設計の誠実さ ――550円が語る哲学

550円という価格をどう捉えるかで、このイヤホンの印象はまったく変わる。
「安いのにそれなりに音が出る」と言ってしまえばそれまでだ。
けれどNarita-Labの視点から見ると、
この製品には**“設計思想としての誠実さ”**が宿っている。

まず、中音域に焦点を絞った設計
低音も高音も無理に出そうとせず、
“聞こえるべき音”を中心に構成している。
それはコストを削った結果ではなく、
「限られた条件の中で最も明瞭な音を届ける」という意志の表れだ。
Maxtillはゲーミングブランドとして、
“勝つための音”を知っている。
だからこそ、ここまで割り切れたのだと思う。

マイクも同じだ。
2mmの専用端子を採用し、
着脱のしやすさと軽さを両立している。
ポップガードが無いという欠点も、
「本体を軽くするための設計判断」と考えると納得がいく。
必要なら自分で工夫する――それもまたゲーマー的だ。

そして何より、550円という制約を言い訳にしていない
ケーブルもチップも、安価ではあるが統一感がある。
デザインを派手にせず、あくまで“道具”として成立させている。
これが、ダイソーというブランドの持つ強さだと思う。

ダイソーの製品群には一貫して、
「完璧ではないけれど、裏切らない」ものが多い。
Maxtill製イヤホンもその一つだ。
求められたコストの中で、最も誠実に“使える形”を残している。
それはまさに、低価格設計の哲学と呼べる。

成田ラボとして見れば、
このイヤホンは単なるオーディオ機器ではなく、
**「制約の中で機能を成立させる思想実験」**のような存在だ。
限界を見せながら、同時にその向こうを想像させる。
まるで透明TWSが“見せる勇気”を語ったように、
このイヤホンは“限る勇気”を語っている。

 

第5章:まとめ ――限界をデザインする勇気

このダイソー×Maxtillのゲーミングイヤホンを観察して感じたのは、
「安さの中にある誠実さ」だった。

音質は中音域特化で、
ゲーミングという名のとおり、声や効果音を聞き取りやすくしている。
音楽鑑賞には物足りなさがあるけれど、
“目的に正直”なチューニングだ。

装着感はやや大柄で、
長時間のリスニングには向かない。
それでも軽量で、短時間のプレイには十分。
S/M/Lイヤーチップを付けてくれた点も、
ユーザーの多様性を意識した誠実な判断だと思う。


そして、2mm径の独自マイク端子。
互換性よりも軽量化と着脱性を優先した設計には、
**「使う場面を明確にする設計思想」**がある。
ポップガードが無いのも潔い。
完璧を装うより、用途を絞り込んでいる。

こうして観察を終えてみると、
このイヤホンは“万能ではないが、正直な機械”だと感じる。
550円という価格を言い訳にせず、
その範囲で最も誠実な形を残している。
まるでスケルトTWSが「見せる勇気」を語ったように、
このイヤホンは**「限界をデザインする勇気」**を教えてくれる。


▷ 総合評価

  • デザイン:★★★☆☆
     地味だが破綻がない。余計な装飾を排した機能美。

  • 音質:★★★☆☆
     中音域に特化。ゲーム用途では明快だが、音楽用途では物足りない。

  • 装着感:★★★☆☆
     大柄で軽いが安定感に欠ける。チップ選びで印象が変わる。

  • マイク性能:★★★☆☆
     明瞭だがポップノイズに注意。工夫次第で化ける可能性あり。

  • コスパ:★★★★★
     550円でこの完成度。明確な目的を持つ“安価の中の完成形”。

  • 総合:★★★☆☆(実験対象としては満点)


▷ 締めのことば

技術とは、必ずしも万能を目指すものではない。

ときには、どこまで削ぎ落とせるかを問う。

ダイソー×Maxtill ゲーミングイヤホンは、
その問いに対するひとつの答えだ。

限界を認め、それでもなお使える形を残す。
そこに、低価格設計の“誠実なロマン”がある。