◆ 導入 ― 20枚の宇宙を組み上げる
スターターデッキとブースターパックを観察してきて、
いよいよ今回は実践フェーズ。
「千怪戦戯」を実際に構築・対戦してみた観察記をまとめる。
本作のルールは、デュエル・マスターズと遊戯王ラッシュデュエルの中間点のような設計。
ターンの流れがスピーディーで、効果処理もシンプル。
だが、カードテキストの配置や能力の使いどころには“遊戯王的思考”が求められる。
直感的に遊べるのに、考え出すと深い――まさにアナログ戦略の教本のような作品だ。
◆ ルール概要 ― デュエマ×ラッシュデュエルの融合構造
遊んでみて感じた印象を整理すると、ルール構造は以下のようなバランスに収まっている。
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デュエマ的要素:
・マナのようなリソースを貯めて展開するテンポ感
・カードの“召喚コスト”概念がシンプルで直感的
・相手の場とぶつける構造がわかりやすい -
ラッシュデュエル的要素:
・一度に複数カードを展開できる爽快感
・引き直しや山札消費のテンポが軽快
・戦況が短いターンで決着しやすく、リプレイ性が高い
この2つの“遊びやすさの系譜”を、
子どもでも扱えるルール量で再構築した設計思想が光る。
110円TCGとは思えないほど、システムが完成している。
◆ デッキ構築の難問 ― 20枚という制約の美学
実際に構築してみると、最大の壁はデッキ枚数が20枚という点だ。
この少なさがとにかく難しい。
20枚というのは、ちょっと油断すると「引き切れ」や「事故」が発生する絶妙なライン。
遊戯王のようにコンボを仕込む余裕もなく、
デュエマのようにリソースを貯め込む猶予もない。
だからこそ、1枚1枚の選択が極端に重い。
1枚抜くだけでバランスが崩れ、1枚加えるだけで戦略が変わる。
まるで将棋の駒を選んで盤面を再構成するような感覚だ。
“構築の苦しみ=ゲームの深み”
110円のカードで、ここまで頭を使うとは思わなかった。
◆ 構築実験1:炎×自然 ― 攻撃と再生のシナジー
まず試したのは、炎デッキ(伝説の獣)と自然デッキ(太古の生物)の混成構築。
炎の攻撃的カードを軸に、自然の耐久カードで支えるハイブリッド構成だ。
結果として、序盤から中盤までは展開が速く、
ラッシュデュエル的テンポ+デュエマ的リソース感覚が絶妙に融合。
火力と再生を両立するこの組み合わせは、
“勢いで押し切る”快感と“立て直す”余韻を同時に味わえる。
◆ 構築実験2:水単 ― 秩序の支配と静的戦略
水デッキ(神々の領域)単色構築では、
炎や自然と違ってトリッキーな立ち回りと調整型戦法が際立った。
直接攻撃よりも、相手の行動を制御しながら形勢を逆転させるタイプ。
“神の視点”というコンセプトが、プレイフィールにもしっかり反映されている。
瞬発力では劣るが、静かに勝つ。
20枚でここまでコントロール性を表現できるのは見事だ。
◆ 観察の結論 ― 小さなデッキで考える贅沢
構築難度は高いが、それを上回るほどの満足感がある。
1枚1枚を吟味して組み合わせ、回しては崩し、また組み直す。
その繰り返しこそが、“遊びながら考える”という原始的知的行為だ。
20枚しかないからこそ、全カードが意味を持つ。
この極限の制約が、かえって**「思考の密度」**を生み出している。
千怪戦戯のデッキ構築は、AIがまだ追いつけない“人間の創造的混沌”。
20枚の中に、小さな宇宙がある。
◆ 次回予告 ― 対戦観察編へ
次は、実際に組んだデッキでの対戦観察編へ進む予定。
構築理論がどう現場で機能するのか、
プレイヤー同士の思考がどう噛み合うのかを、
成田ラボが検証する。