◆ 導入 ― 二重設計という遊びの仕掛け
ダイソーの「プチブロック」シリーズを眺めていたとき、
ひときわ異彩を放つパッケージがあった。
DXスピノサウルス&DXユタラプトル。
同じパーツ構成で、どちらか一体を選んで組み上げられるという“二重設計キット”だ。
手に取ってみると、対象年齢は12歳以上。
つまりこれは、子ども向けブロックというよりも
「構築を楽しむ知的玩具」として設計された商品だとわかる。
今回はそのうちのユタラプトルを組んでみた。
結果として、組み立て工程から完成後の印象まで、
想像以上に“本気の設計”が潜んでいた。

◆ 年齢設定と価格 ― 思考年齢を試す330円
価格は税込330円。
プチブロックの中では上位にあたる“DX(デラックス)ライン”。
通常の110円モデルが“入門用”だとすれば、
この330円キットは明らかに“構築者向け”。
組みながら気づくのは、
「12歳以上」とは年齢ではなく思考年齢のことだということ。
設計図を追いかけるだけでは完成しない。
空間を把握し、バランスを想像しながら手を動かす必要がある。
途中で何度か間違えて分解し直すことも含めて、
まさにアナログ版のプログラミングに近い体験だった。
110円が“入り口”なら、330円は“思考の深層”。
価格差がそのまま“設計密度”を物語っている。
◆ ピース数と構造 ― 262ピースが描く「彫刻型設計」
総ピース数は262個。
この数字が示すとおり、密度が圧倒的に高い。
しかし最も興味深いのは、その組み立て手順の思想だ。

このキットは内部フレームを作って外殻を被せる方式ではなく、
**外側と内側を同時に積み上げて形を作っていく“彫刻型設計”**になっている。
骨格を立てるのではなく、
立体を少しずつ掘り出していくような感覚だ。

一つ一つのピースを積みながら、
「ここは重心を支える部分だな」と直感的に理解していく。
バランスを崩すとすぐに崩壊するため、
注意深さと観察眼が自然に鍛えられる。
設計図通りに作るのではなく、設計者の思考を“なぞる”。
それがこのキットの最大の醍醐味だ。
◆ 組み立て実験 ― 約1時間の集中実験
実際に組み立てにかかった時間はおよそ1時間。
見た目以上に工程が多く、全体的に難易度は高め。
指先の繊細な操作が要求され、途中で何度も組み直しを繰り返した。
特に脚部と尾の接続パーツは繊細で、
完成後も腕や尻尾の部品が外れやすい点は要注意。
ただし、その「壊れやすさ」も含めて、
構造の限界と軽量化のバランスを感じられる。
完成した姿は、まぎれもなくユタラプトル。
小さなボディの中に“恐竜らしい俊敏さ”が表現されており、
手のひらサイズながら存在感は抜群だ。
作る過程は試行錯誤の連続。
でも完成した瞬間、“立体が生命に変わる”感覚があった。
◆ 観察の結論 ― 手で考えるブロック哲学
DXスピノサウルス&ユタラプトルは、
単なる恐竜ブロックではなく、構造と理解の実験教材だ。
対象年齢12歳以上、262ピース、330円。
この三つの条件が揃った瞬間、
それは“子どもの玩具”を越えて“思考者の模型”になる。
組みながら考え、形にしながら理解する。
それはAIにはまだ真似できない、人間の手の学習だ。
◆ まとめ ― ダイソーが作ったミニチュア進化論
同じパーツから2体の恐竜を作れるこのキットは、
単なる“組み換え玩具”ではない。
それは、ひとつの設計思想から複数の生命を生み出すという、
小さな進化論の再現だ。
330円のプチブロック。
だがその中には、“創造”と“再設計”の哲学が詰まっている。
成田ラボ的に言えば、これはもう──
玩具を装った構造実験だ。