導入
FiiO JD10を一晩かけてエージングした。
例の「全帯域均等ループ音源」を流して、夜通し鳴らすいつもの儀式だ。
今回は2,000円未満という低価格機。
正直、エージングでどこまで変わるのか半信半疑だった。
それでも朝になってイヤホンを耳に入れた瞬間、
「ん?」と思う程度の変化は確かにあった。
ドライバーの硬さが少し取れ、音が一歩前に出てくる。
派手ではないが、確実に“整ってきた”感覚がある。
音の変化と印象
一晩のエージングを終えたJD10は、全体のトーンが一段落ち着いた印象を受けた。
音のバランス自体は初期と大きく変わらないが、
深みと安定感が加わり、“完成されたフラット”に近づいた感覚がある。
高音域は耳に刺さらず、スッと入ってくる。
わずかに硬さを感じた初期とは違い、いまは自然な余韻を残しながら伸びる。
金属的な響きが消えて、シンバルや高域ストリングスも耳に馴染む。
中音域はやや控えめ。
それでもボーカルの存在感は失われず、
全体の音場の中で無理なく調和している。
**“主張しすぎない中域”**という言葉がぴったりで、
長時間聴いても疲れにくいバランスに整っている。
低音域は派手さがなく、沈み込みが自然。
エージングによって膨らみが抑えられ、
ベースやキックの輪郭がよりタイトに締まった。
重さで押すタイプではなく、音の芯で支える低音だ。
結果として、JD10は価格帯を忘れさせるほど“安定した万能機”に変わった。
誇張がなく、ただまっすぐ音楽を聴かせてくれる。
この落ち着きは、まさにFiiOらしいチューニング哲学そのものだ。
恒常曲での再チェック
エージング後のJD10を、いつもの7曲で改めて確認してみた。
全体的に音がまとまり、滑らかさが増している。
“安定した万能機”という言葉がよりしっくりくる仕上がりだ。
-
星街すいせい「もうどうなってもいいや」
→ 高音の伸びが自然で、ボーカルの抜けがよくなった。
「どうなってもいいや」と言いつつ、音はかなり整っている。 -
米津玄師「Plazma」
→ 低音が引き締まり、ベースラインがクリアに。
電子的な質感も丁寧に表現されている。 -
やしきたかじん「スターチルドレン」
→ 中音の艶が増し、ブラスのアタックも柔らかい。
“夜中にじっくり聴く系”のバランス感。 -
YOASOBI「勇者」
→ サビ部分の盛り上がりがスムーズに。
ボーカルと伴奏の分離がより自然になった。 -
鷺巣詩郎「EM20 = wunder operation =」
→ オーケストラの広がりが丁寧に描かれる。
音場はそこまで広くないが、奥行きの表現が巧い。 -
Hardfloor「Acperience7」
→ 低域がタイトでリズムが崩れない。
アナログシンセの立ち上がりが気持ちいい。 -
鈴村健一「ババーンと推参!バーンブレイバーン」
→ 元気さを保ちながらも、ボーカルが前に出すぎない。
全体のまとまりがLAN級に安定している。
この段階で、**JD10は価格帯を超えた“完成版”**になったと感じる。
派手な変化ではないけれど、確実に“耳に馴染む良機”へ成長した。
LAN・CHU2との比較(エージング後)
エージングを経て、三機種それぞれの個性がより明確になった。
同じ価格帯〜ミドル帯でも、チューニングの思想がはっきり違う。
🎧 FiiO JD10:深みと整合性の「まっすぐ型」
全体のまとまりが抜群で、低価格機にありがちな誇張がない。
高域は澄んでいるが刺激はなく、低域も控えめながら芯がある。
派手さよりも誠実さ。音を“そのまま”聴かせるタイプ。
まるでエンジニアが「これが正解」と言って差し出してきたような安定感。
🎵 Moondrop CHU2:華やかで明るい「バランス型」
JD10より高域が明るく、中域も軽やか。
解像度は高いが、LANほどの落ち着きはない。
それでも音の輪郭はシャープで、**“聴いていて楽しい万能機”**という印象。
LANより若干カジュアル、JD10より表情豊か。
🎼 Moondrop LAN:完成度の高い「上品型」
CHU2やJD10に比べて一段上の安定感と艶。
低音は締まりつつも豊かで、音の余韻が美しい。
エントリー帯の完成形と言ってもいいほどの作り込み。
JD10の落ち着き、CHU2の明るさを両立したような絶妙な立ち位置。
三者を並べて聴くと、
JD10は「静」、CHU2は「動」、LANはその中間で「調和」。
価格を考えれば、どれを選んでも外れはない。
だが**“正確に音を聴きたい”ならJD10、
“音楽を楽しみたい”ならCHU2、
“その両方を求めるならLAN”**──という棲み分けになる。
所感
FiiO JD10は、派手に変化するタイプではない。
けれど、一晩鳴らしてみて改めて感じたのは、
「音の芯が太くなった」 という一言に尽きる。
高音はより滑らかに、中音は自然に馴染み、
低音は控えめながらもしっかりと支える。
聴き疲れせず、どんなジャンルもそつなくこなすその姿勢は、
まるで“音楽を邪魔しないイヤホン”そのものだ。
CHU2の明るさやLANの完成度に比べると、
JD10は地味かもしれない。
でも、その地味さこそがFiiOの美学だと思う。
奇をてらわず、音をありのまま届ける潔さがある。
2,000円未満という価格を忘れるほど、
全体のバランスが完成されている。
そして、どのイヤホンよりも“素直に音楽を楽しめる”一台だった。
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