narita-lab’s blog

成田ラボ 〜テクノロジーと雑学の観察日記〜

第1部:「ガラケーは完成された家電だった ― 変わらないことの価値」

🪩導入:「アップデートがいらなかった時代」

スマートフォンを使っていると、ほぼ毎週のように現れる「アップデートがあります」の通知。

けれど、かつて“携帯電話”が主役だった頃──そんなものは存在しなかった。

当時のガラケーは、買った瞬間が完成形。
ソフトの更新も、不具合修正も、機能追加もない。
それでも不思議と、誰も不便だとは感じていなかった。

今回は、そんな「アップデート不要の時代」を少し振り返ってみたい。
私がauユーザーとして使っていたEZweb、そしてGREEmixiが賑わっていた頃の“静かなネット”の話をしよう。

 

📴EZwebが拓いた“ポケットの中のインターネット”

 2000年代前半、私の手の中にあったのは、銀色の折りたたみ式のau端末だった。
ディスプレイは小さく、ボタンはカチカチと確かなクリック感があり、
開けば“着信音設定”や“メール作成”のメニューが整然と並ぶ──そんな時代だ。

 当時、ネットといえば「EZweb」。
スマートフォンのようにアプリを入れるわけでもなく、
URLバーで検索するわけでもなく、キャリアのメニュー画面から世界が広がっていた。
ニュース、天気、占い、着うた、そして懐かしの「待ち受け画像ダウンロード」。
どれも月額315円や105円の“小さな有料サイト”を通して楽しむものだった。

 通信速度は今思えば信じられないほど遅かった。
けれど、“通信中”のあのピコピコ音や読み込みバーの点滅には、
なぜかワクワクするものがあった。
ページが開くのを待ちながら、「繋がった!」と喜んでいた自分を思い出す。

 当時は、スマホのような頻繁なアップデートも通知もなかった。
アプリのバージョン管理も、セキュリティパッチも存在しない。
それでも、EZwebはちゃんと動いたし、壊れなかった。
**“更新が不要なほど完成された世界”**が、そこにはあった。

 携帯を開けば、いつものメニュー、いつもの文字色。
一度設定した壁紙もずっとそのまま。
何も変わらない──それが安心感であり、
“手のひらの中の生活”を静かに支えていた。

 

💬GREE・モバゲー・mixi──SNSがまだ“静か”だった頃

 EZwebでニュースや着うたを楽しんでいた頃、
GREE」や「モバゲー」という言葉が、少しずつクラスや職場の中で聞こえ始めた。
SNS──そんな言葉はまだ一般的ではなく、
多くの人にとってそれは**“携帯の中にある小さなコミュニティ”**だった。

 GREEには「足あと」という文化があった。
誰が自分のページを見に来たかが分かる仕組みで、
それが嬉しくもあり、ちょっとした緊張にもなっていた。
コメント欄も今のように誰もが見える場ではなく、
閉じられた空間で交わされる**“静かな交流”**だった。
絵文字やデコメ、写メ日記──文字に表情をつける工夫がたくさんあった。

 モバゲーはゲームが中心。
今のスマホゲームの原型と言ってもいい。
無料で遊べるカードバトル、釣り、農場、占い──
どれも“携帯でここまで遊べるのか”という驚きに満ちていた。
夜になるとアクセスが集中して通信が遅くなる、
それでも画面の向こうには同じ時間を過ごす誰かがいた。

 そしてもう一つの存在が「mixi」。
当時のmixiは、**リアルの友人とだけ繋がる“内輪の世界”**だった。
日記を書いて、足あとを見て、「いいね」ではなくコメントで会話する。
そこには“人との距離感”を自分で選べる余地があった。
今のようにアルゴリズムが流れを決めることもなく、
誰の投稿もゆっくりと、自分のタイミングで読めた。

 更新ボタンを押さなくても、世界は変わらない。
画面もレイアウトも、昨日と同じまま。
でも、その“変わらなさ”が心地よかった。
SNSがまだ静かで、個人の時間を奪わなかった頃の話だ。

 

🧠更新されない世界の安定

 当時の携帯電話には、“変わらない”という安心があった。
毎日開くメニューは昨日と同じ位置にあり、
お気に入りの壁紙も、待ち受けのキャラクターも、
何ヶ月経ってもそのままだった。

 通知は鳴らない。新しい機能も増えない。
だけど、それが不便だと思ったことは一度もない。
それどころか、「変わらないこと」そのものが信頼だった。
そこには“更新”ではなく、“安定”があったのだ。

 もし不具合が起きても、それは「次の機種で直ること」。
今のように「OSの更新で修正します」とはならない。
それが当たり前の時代だった。
機械は完成品であり、買ったその瞬間が頂点。
持ち主が壊すまで、同じ姿で寄り添い続けてくれた。

 EZwebの青いメニュー、GREEのシンプルな背景、
mixiの淡いオレンジ色。
今思えば、どれも“人の心拍”のように落ち着いたデザインだった。
見慣れたUIが、生活の一部になっていた。

 いつの間にか、私たちは「変化し続ける端末」に囲まれるようになった。
進化の代償として、安定を失ったとも言える。
あの頃の携帯たちは、もうアップデートされることもなく、
静かに引き出しの奥で眠っている。
けれど、その“完成された静寂”を覚えている人は、
今もきっと少なくないだろう。