導入:「測るための道具、その現実」
Ainex KM-09を導入したとき、
電気の流れが数字として見えることに感動した。
だが、日常の中で繰り返し測定していくと、
“もっと軽くて、扱いやすい観測器”が欲しくなる。
そんな現場の要求に応えてくれたのが、
Elsonic ECY-MCC60だ。

最大60W対応。Type-C to Type-C。
PD 3.0までの範囲であれば、
スマホ・TWS・モバイルバッテリー──
Narita-Labの主な観察対象をすべてカバーできる。
KM-09のような高精度計測ではなく、
**「いま、ここで使える」**を優先した実測器。
精密さよりも誠実さ。
その使い勝手を観察していこう。
第1章:外観 ――手のひらサイズの計測器
最初に手に取って感じたのは、「工具のような存在感」だった。
Elsonic ECY-MCC60は、光を柔らかく反射するシルバーのメタリックフレームを採用している。
アルマイト風の明るい銀色で、
実験室というより現場の計測器といった印象だ。

両端のケーブルはメッシュスリーブ仕様のType-C to Type-C。
柔らかく取り回しやすいが、外被はしっかりしており、
曲げてもコシが残る。
このケーブル一体型設計は、
測定時に接触不良が起こりにくく、
“差し替えて使う”よりも“持ち出してすぐ使う”ことを前提としている。
液晶は約1.4インチのカラー表示で、
明るく数字の視認性も良好。
ただし表示は横向き固定で、
縦にしても自動回転はしない。
つまり、装置の向きを変えるのではなく、
使う側が視点を合わせる設計だ。
ボタンは一切なし。
接続すれば即起動し、
電流と電圧の変化を自動で検知して表示する。
Ainex KM-09が「観察のための装置」なら、
このECY-MCC60は**“動きの中で測る装置”**。
余計な機能を排し、数値と実用だけに集中した道具だ。
第2章:観測挙動 ――軽快な反応と現場の呼吸
ケーブルを挟み、電源を入れた瞬間。
Elsonic ECY-MCC60の画面が即座に点灯する。
起動遅延はほぼゼロ。
電気が流れると同時に計測が始まる。
この俊敏さは、KM-09の落ち着いた描画とは対照的だ。
スケルトンTWSを充電してみる。
画面にはすぐに「5.02 V/0.31 A」が表示され、
数値が滑らかに上下する。
KM-09が1/10 秒単位で変化を描く“観察の目”だとすれば、
ECY-MCC60は**瞬間を切り取る“反射神経”**に近い。

10 分ほど経つと、電流は0.12 Aに。
0.05 Aを切る頃にはLEDが消え、
その後わずかに「0.00 A」のまま静止。
計測の終了を自動で判断するわけではないが、
数値の安定感が“充電完了”を伝えてくれる。
Xperiaを接続すると、
初期値5.04 V/1.67 A。
画面の更新は1 秒ごとで、
読み取りのリズムが一定している。
KM-09のように積算値や内部抵抗は見られないが、
実用的な「いま流れている電力」が即わかるのがこの装置の強みだ。

モバイルバッテリーでも同様に、
0.00 A → 0.05 A → 0.32 A → 安定。
表示が滑らかで、
小さな電流変化にも過敏に反応する。
計測結果をグラフに描かなくても、
**“目で読める波”**になっている。
Narita-Lab的に言えば、
KM-09が“電子の呼吸を観察する顕微鏡”なら、
ECY-MCC60は“電子の鼓動を感じ取る聴診器”だ。
正確さより、リズムと手軽さを重視した計測感覚。
机の上ではなく、作業の合間にポケットから取り出して使う。
それがこの装置の本領だ。
第3章:制約と相性 ――60Wという境界線
Elsonic ECY-MCC60の最大対応は 60W(20V / 3A)。
これはスマートフォンやTWS、モバイルバッテリーなど、
Narita-Labが日常的に扱うデバイスには十分な範囲だ。
ただし、この数値は観察の自由度を少しだけ制約する。
▷ 45Wが限界の環境で
Narita-Labの環境で扱う最大電力はおよそ 45W。
つまり、この装置を“フルパワーで使う機会”はほとんどない。
だが、それこそがこの計測器の価値でもある。
60Wという上限は、
「必要十分のライン」を正確に見極めている。
140WクラスのKM-09が“理想を追う観察装置”なら、
ECY-MCC60は**“現実の上限を見据えた計測器”**だ。
▷ 測定の安定性
45WクラスのPD充電器を接続した際、
電圧は 20.0V前後、電流は約 2.1A。
数値の変動幅は±0.02V程度で、非常に安定していた。
ディスプレイの更新間隔は一定で、
“今まさに流れている電力”を可視化するには最適。
積算表示や履歴ログこそ無いが、
「観察」よりも「確認」を目的にした潔い構成だ。
▷ 観察対象との相性
-
TWS・イヤホン類:問題なし。表示も滑らかで微小電流の検知も早い。
-
スマートフォン:PD充電対応機であれば正確に追従。
-
モバイルバッテリー:入出力ともに安定して測定可能。
-
ノートPC・高出力DAC:対象外。60W上限でリミッターがかかる。
総じて、**“ラボの軽装観測班”**という立ち位置。
KM-09を主力顕微鏡とするなら、
ECY-MCC60は現場でのスケッチブック。
どちらも同じ景色を描くが、
アプローチが違う。
第4章:実用の哲学 ――美しさではなく、誠実さで測る
Elsonic ECY-MCC60を使って感じるのは、
「派手さのない安心感」だった。
Ainex KM-09が“観察の美学”を象徴する装置だとすれば、
このECY-MCC60は**“実用の誠実さ”を体現する装置**だ。
▷ 誠実さの理由
第一に、余計なものがない。
自動起動、横固定ディスプレイ、ボタンレス操作。
使う人の行動を制限せず、
ただ“測る”ことだけに集中できる設計。
その潔さが、この装置の最大の魅力だ。
第二に、数値が嘘をつかない。
高精度を誇示するわけでも、
演出を加えるわけでもない。
目の前の電力をそのまま映し出す。
その“正直さ”こそが、このテスターの哲学だ。
▷ 60Wという選択の意味
60Wという上限値は、
妥協ではなく設計上の焦点だ。
誰もが使うスマホ、イヤホン、モバイルバッテリー――
その日常的な範囲を、最適な速度で測る。
「何を測らないか」を明確にすることで、
逆に“使える範囲”を広げている。
それはNarita-Labが目指す姿勢にも重なる。
完璧を追い求めるのではなく、
“いま自分が届く範囲”で正確に観察する。
観察とは、万能ではなく誠実さの積み重ねだ。
▷ 小さな装置の役割
ECY-MCC60は、派手な機能を持たない。
けれど、毎日の観察の中でいちばん手に取る回数が多いのはこの装置だ。
KM-09が「記録のための目」なら、
ECY-MCC60は「確認のための手」。
そして手は、もっとも正直な観測器だ。
測り、感じ、納得する。
この装置は、**“観察の最前線で働く現場の相棒”**である。
▷ 締めのことば
数字を飾らず、ありのままに映す。
それが、Elsonic ECY-MCC60の誠実さだ。美しさより、確かさを。
観察より、実感を。成田ラボ 実験装置 #004――
“測る”という行為に、静かな現実を与えてくれる装置。